2024.2.28 wed – 3.3 sun
12:00 – 20:00 (最終日18:00まで)
入場無料

母は海に浮かぶ島でうまれ、東京へやってきて家庭をもった。
海のない街で育った私だが、幼い頃はかならず毎年いちど母の故郷へ訪れた。

小さい私にとって大きな水のふくらみはとても不可思議だった。
目の前で動くそれに近寄り、足を沈める。ひどく冷たい時もあればなまあたたかい時もある。
体にのしかかる重みは歩みを進めるほどに増していく。
そのうち足がつかなくなり、頭まで潜ったときには息を吸うことの許されない水中。
座標をうしなってたゆたう感覚。

未知の世界は、現実をかたち作ろうとする思考のバランスを崩してその輪郭を曖昧にする。
絵と出会いふれてきた世界に、海はとてもよく似ている。

目に見えるかどうか手に取れるかどうかで存在を裏付けようとするのは安心したいからだろうか。
だけど日常のすぐそばにパラドックスはあって、常識/非常識を線引きする現実世界への確信はあまりにも危うい。
自分は正気だっていう思い込みがそれを担保しているのなら、破綻はいずれやってくる。

絵は刹那的な感情や煩雑な思惑、あまねく情報の集積からふいに生まれて
そういう現実世界のほころびからのぞく、得体の知れない世界を想起させる。

その非現実と思えるような景色と接続するたびに幾度となく、畏怖と憧れ、希望を抱いてきた。
自分が立ってるところとそれも含めて、ありのままの世界なんじゃないかって。

平面上にあらわれる絵はまるで水平線に浮かぶ彼岸のようだ。
現実の周りをたゆたう大きな海の一部とも言える。

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